2009年10月01日

誉田(こんだ)の戦い―夏の陣

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大坂夏の陣、誉田の戦い(道明寺の戦い)の石碑。
大阪府羽曳野市の誉田八幡宮境内にあります。
点在する古墳などの位置から推察すると、この辺りに真田軍が布陣したと思われます。
ここで伊達政宗と対決したんですねぇ。

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石碑の横に「大坂の役真田幸村」の文字が読めます。写真だと判りづらくてすみません。

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説明の看板ですが、そこには幸村の名前はありませんでした。


ここから天王寺茶臼山に引き上げるのに、通った道をたどってみたいです。
布陣の図を見ると、真田軍が殿(しんがり)を取ったと思うんですが、確実な資料がわからなかった。ただ、あの有名な挑発台詞は、どう考えても最後尾だろうなと。


posted by 高野尾 凌 at 18:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 史跡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第四章−13−

 年が明けて寒さが厳しさを増した頃、長浜の宿屋に一人の武士が宿を取った。
 このあたりでは大きめの宿で、乗ってきた馬を安心して預けられるのがありがたかった。
 一夜をぐっすり寝られればいいかと取った宿だが、船宿だったので、土間の食堂で夕食も頼むことにした。
 今は魚もあまり獲れないらしいが、それでも干物や味噌漬けの魚が食べられて、久しぶりの満腹感にほっとする。
「お侍さんは北陸の人かい?」
 宿屋の主人は気兼ねなく話しかけてくるが、武士はあまり話したくはないようで、微かに首を振るだけだった。足元に置いた長細い袋は鉄砲が入っているらしく、どことなく人を避けたいようで、主人もそれ以上の愛想を振りまくのは止めることにした。
「よー、旦那、久しぶり」
 賑やかな客が入ってきてくれてほっとする。
「今回は早かったね。京じゃいい女に袖にされたのか?」
「ははは。まぁ、そんなもんだ。それより、元気な声が迎えに出てこなかった。あの坊主たちは?」
 最近まで働いてくれていた少年二人の事を聞かれ、主人は気落ちしたように顔を曇らせた。
「それが年越しを待たずに出て行ってしまったんだ。もう少しいてくれと頼んだんだがなぁ」
 できることならずっと世話を見つつ、ちゃんと仕込みたいと思っていたのだが、あまりにも急にやめたいと言われ、そのまま出て行ってしまった。
「なんだぁ、それならこんなに急いで戻らなかったのに」
 なじみの客に酒を出してやり、人も少ないのをいいことに、主人も向かいに座った。誰かに愚痴をいいたかったのかもしれない。
「移った所を教えろって言う客もいたよ。本当にいい子たちだったんだがなぁ」
 いかにも惜しそうに言うので、客のほうが慰める形になってしまう。
「まぁまぁ、仕方ねぇよ、あの幸村はきっと、名のある武士の子だよ。いつまでもこんな船宿で下男働きなんかしているものか」
「親は戦で死んだって言ってたんだがなぁ」
「どことなく気を惹く子だったよな。変な奴に絡まれてなきゃいいんだが」
「佐助が守るだろう……」
 がたんと椅子の倒れる音がして、主人と客が横を見た。まだ若い武士が驚いた顔で立ち上がり、二人を見つめていた。
「お侍さん? どうかなさいましたか?」
 何か粗相をしただろうか、二人の話がうるさかっただろうかと、主人は申し訳なさそうに謝った。
「今、佐助と言ったか? 子ども二人連れで、一人が佐助?」
 武士は震えるような声で、主人に確かめてきた。
「え、えぇ。ここで一月ほど働いていたんですけどね。年の暮れに急に辞めたんです」
「もう一人の名前は?」
「幸村っていいます。ご存知ですか? 二人は天涯孤独だと言ってたんですが」
 その名前には眉を顰められた。知り合いではないのだろうか。
「幸村という子どものほうが上品な感じで、佐助という方が守るようにしていたのだな?」
「そうです。辛い仕事ほど進んで代わったり、荒れた手に薬を塗ってやったり。甲斐甲斐しい世話振りでしたよ」
 ……こんな偶然があるのだろうか。
 十蔵は全身が震えそうだった。嬉しくて。
「その二人はどこへ行った? 何か聞いてないか?」
 十蔵の気迫に、主人はぶるぶると首を振る。
「何も。あ、ただ、瀬田で連れたちと合流すると。入れ違いになったら、そう伝えてくれって頼まれました」
「連れ?」
「えぇ、そうです。城の人足をしている二人のおじがいると。おじと言っても、血の繋がりはないように思いますよ。二人とも坊主崩れで、経を詠むより戦に出るのが向いているような二人で」
 主人の説明に、別人だろうかと迷いが生じる。
 けれど。幸村……幸村と心の中で呟いて、一つの可能性を思いついた。
 幸隆、昌幸と続いてきた真田の当主。その文字に繋がる名前。傍にいる佐助。
 別人であるわけがない。
 しかし、無事ならばどうして戻ってこない。誰もが心配していることなど、源次郎ならばわかっていて当然だ。それを裏切るような子でもない。
「幸村のお知り合いですか?」
 主人がおずおずと聞いてくる。
「いや、人違いのようだ。勘違いだ。すまない」
 二人で逃げたはずの源次郎が、何故か僧兵を二人連れている。
 源次郎の行動の理由を必死で考えた。
 彼は、知っているのだろうか。上田城がどうなっているのかを。
 上田城に戻ろうとした源次郎を自分達が引きとめた。
 今の年の源次郎では、戻っても大将として立てられぬ。立てたとしても、外から上田城を取り戻すのは至難の技だ。それは上田城に仕えた者ならば嫌というほど知っている。
 若様まで亡くしてはならない。それが真田軍の総意とも云えた。
 源次郎がそれを正確に理解して行動していたとしたら?
 既に仲間を連れている源次郎の現在に、身の内から震えるほどの感動が押し寄せてくる。
 すぐにでも後を追いたい気持ちになった十蔵だが、瀬田からは道が大きく分かれる。京に行ったのか、大和に行ったのか、大坂に向かったのか。
 一本間違えばそのまま会えなくなる。
 それよりは……。
 一晩を熟考して、十蔵は決意を固めた。
 今は後を追わない。
 上田城に向かおうとした殿を引きとめたのは自分の腕である。その自分が後を追いかけるだけでいいのか。駄目だ。
 源次郎が考え、成そうとしていることの、準備こそ、自分の役目である。
 離れ離れになった真田配下の武将たちは、このままではいずれ分散し、いずれどこかの戦場で敵味方として対峙してしまうかもしれない。そんなことはさせられない。
 むしろ、分散させられたことを好機としよう。敵の動きを逸早く知ることだって出来るのだと。
 そのために、北条、松平、村上を繋ぐ役目が必要だ。
 殿を引き止めた責任は自分で取ると決めた。
 翌朝、鉄砲を担いで出発する武士を見送りに出た主人は、彼がくるりと振り向いたのに驚いた。
「昨日話してくれた二人連れのこと。これで今後一切、忘れてくれないか」
 ずしりと重い布袋を渡される。
「え、ちょっと……これは」
 あまりの金額に、主人は震える。
「誰に聞かれても、そんな二人はいなかったと話してくれ。誰に聞かれても」
 念を押す武士に圧倒されて、主人は口を開けて見上げてくるばかりだ。
「よいな、幸村と佐助はここにはいなかった。頼んだぞ」
 ようやく我に返った主人は、両手に乗せられた袋のその重みが、幸村の命の重みにも思えた。これから死ぬまで頑張っても稼げないような金額に、驚きつつも、どことはなく納得していた。やっぱりただの孤児ではなかったのだと。
「わかりました。二人はいなかった。馴染みの客が来ても、子どもを捜す者が来ても、わしは知りません」
「くれぐれも頼む。そうだ、もし、もしも、その二人がここに訪ねてくることがあれば、これを渡してくれ」
 もう一つの布袋を渡される。こちらも同じくらいの重みがある。
「こんな高額、預かれません。それに、あの子達は出て行ったんですよ。戻ってこなかったら、どうやってお返しするんですか」
 何という無用心な侍だと呆れてしまう。
「その時は自分のものにすればいい。その代わり約束してくれ。あと十年、ここで船宿をしていてくれ。その間に二人に会ったらそれを渡してくれ。それまでの約束金だ」
「お侍さん、金で目の眩む輩も多いんですよ。こんなの、簡単に渡しちゃいけませんって」
 おろおろとする様子がおかしい。そんな奴はもっともっとと要求するだろう。
 新しい銃を購うつもりだった金だが、それが源次郎に渡るならば惜しくない。わたらなくても、二人をここで食いつながせてくれて、親身に惜しんでくれるこの主人が、悪者だとは思えなかった。
 自分に人を見る目はないのだが、源次郎の目は確かなのだ。
「ありがとう、ご主人。くれぐれも頼む」
 本当にありがとう、二人を守ってくれて。優しくしてやってくれて。
 十蔵は深々と礼をして、さらに主人を慌てさせた。
 まずは上田に戻ろう。十蔵は来た道を引き返していった。

posted by 高野尾 凌 at 22:31| Comment(2) | TrackBack(0) | 第四章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月02日

第四章−14−

 才蔵は自分が調べてきたあらましを半蔵に報告した。
 ただし、自分が聞いていなかった、十蔵と佐助に関しては、見聞きしたことを報告しなかった。
 頼まれていたのは、「小姓二人の監視」と「その二人に真田の若様が接触しているか」だけであったので。
「若様の捜索は打ち切られたぞ。お前の主が真田軍を解体したから、もう捜しても無駄だとなったらしい。戻ってきても真田を継ぐことは不可能のようだ。よかったな」
 最後の一言は完全に厭味だったが、半蔵は単に安心しろよと言われたと受け取ったようだ。
「それで小姓二人はどうなる?」
「あぁ、上杉に残ると言ってた。矢沢も残留だ。そのまま上杉で大将くらいにはなるんじゃないか?」
「無理だろう、上杉は今、余所者を中枢に入れることにはかなり警戒している。足軽程度に使われて終わりだろうに」
 臆病で卑怯な主しか知らない奴は可愛そうだ。上杉の「義」の精神など、欠片も理解していないのだろう。
 結束力が同郷でしか得られないと思うのなら、他人の土地を攻めてはいけない。
「まぁ仕方ないさ。城主を失った侍ってのは、そんなものさ。そもそも兵士なんて使い捨てさ。俺たち忍もな」
 才蔵が冷めた口調で言うと、半蔵は鼻から頬に走った傷を歪ませながら、自分は使い捨てじゃないと反論した。
「才蔵、このまま俺たちの仲間になれ。お前が仲間になってくれたら心強い」
「冗談。俺は二度と主は持たないって決めてる」
 即座に断る。
「それに、服部組の仲間になったとしたら、俺はお前に使われることになるんだろう? それだけは絶対に、い、や、だ」
 指差して言ってやると、さすがの半蔵もむっとしたらしい。
「なんとしても仲間にすると言ったら?」
 腰の剣に半蔵が手を掛ける。
「お前が俺に勝てると思うのか?」
 才蔵は悠然と立ったまま、綺麗な笑みを浮かべる。壮絶な美しさに、一瞬、我を忘れそうになる。
 はっとして首を振り、半蔵は剣を抜いた。
「抜いたからには、俺は収めねーぞ」
 美しい笑みの中で、瞳がきらりと光る。
 ごくりと息を飲んだ半蔵の周りに、白い靄が広がり始める。
「才蔵……」
「二つ名はお飾りじゃねーぞ?」
 白い霧の向こうに、才蔵の姿が溶けていく。
「そちらからだって見えないだろう!」
 強がりで言うと、足元に苦無が飛んできた。
「わざと外してやった。次は命中させる」
 声から方角を探ろうとしたが、頭上から聞こえてくるようであり、四方八方から響いてくるようでもあり、狙いを定めることはできない。
 霧隠れという名前から、霧を扱うのかもとは思っていたが、まさかこれほどまでとはと不気味さが恐怖となって忍び寄ってくる。
「さぁ、逃げろよ、半蔵」
 嘲笑の声が響き渡る。自分はまったく方角さえもわからないのに、相手からは見えるのだ。
 何か仕掛けがあるはずだ。何か……。
 必死で探すが、そもそも仕掛けがどんなものかもわからないのに、探しようがないのだと気づけないでいた。
 一歩を踏み出すと、ぱしっとまた苦無が飛んでくる。
 一歩下がると、また苦無が。
 どちらにも進めず、自分が北を向いているのか、南を向いているのかすらわからなくなる。まるで白い海の中にいるようだと思う。
 そう思うと、息苦しく感じられる。
「どうした、半蔵。怖いか? 恐ろしいか?」
 笑い声があちこちから木魂する。
「才蔵、やめろ! 仲間だろう!」
「仲間だったことなんて一度もない」
 剣を構えた右腕に痛みが走る。苦無がかすっていったのだろう。
「安心しろ。毒は塗らないでやった。まぁ、忍だから毒の耐性くらいはあるだろうけどな?」
 完全に馬鹿にされている。わかっているのに手も足も出せない。
「服部半蔵の名前が泣くぞ。反撃くらいしてくれよ」
 頭にかっと血が昇る。
 才蔵は、どうすれば、何を言えば半蔵が傷つくかを知っているのだ。
「二度と会うことのないように祈っておけ。今度会うときは、真っ先に狙ってやる」
 ばさっと目の前を黒い影が横切る。ひぃっと半蔵は頭を抱えて尻餅をついた。
 恐る恐る顔を上げると、ゆっくりと霧が晴れていくところだった。
「才蔵……?」
 小さな声で名前を呼んでみるが、応答はない。答えがないことにほっとする。
 あんな奴、配下にしたら寝首を掻かれる。だから逃がしてやった。
 そうやって自分を正当化する。
 右腕がじんじんと痛む。塗り薬を塗りつけて、汚れていない布を丁寧に巻いた。

 半蔵が立ち去るのを見届けて、才蔵は姿を現した。
 これから徳川がどう出るのかはわからない。わかるつもりもない。
 世の中は羽柴に傾いている。上杉で耳に挟んだことだが、いよいよ四国が攻められるらしい。
 もう一生、戦にも大名にも関わるつもりはなかったが、見物くらいなら面白いかもしれない。
「西かぁ。ちょっと遠いなぁ」
 後ろで結んだ髪を結い直して、背伸びをした。
 面倒というわりには、その表情は楽しそうだった。

posted by 高野尾 凌 at 21:28| Comment(2) | TrackBack(0) | 第四章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月03日

大坂城


大坂城。
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築城時は大坂と表記されていたので、正確には大坂城のはず。

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大坂夏の陣屏風展をやってました。赤備えが真田隊ですね。鹿角の兜が幸村です。

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ミニチュアの幸村も可愛かったので撮ってきた。

天守閣の一番上は思ったより狭かった。今はビルばかりが見えるだけですが、当時は大阪を一望できたでしょうね。
天下人の気持ちを実感できたと思われます。
環状線森ノ宮を降りたら、けっこうな散歩となりました。天守閣目的の方は地下鉄谷町四丁目駅がいいかと思います。


今日は天満橋のほうに用事があったので、この機会に!と大坂城に。っていうか、そんなに意気込まなくても、近いからいつでもいけるはずなのに(^^;) いや、けっこう遠いものです。

森ノ宮で降りて、天守閣に登り、天満橋に抜けたので、ちょうど大坂城の外側を半分歩いたことになります。けっこう歩いた。
しかも私、誰にも聞かず、天満橋の目的地まで地図を見ていけたよ!
地図を見れる女になったよ! 成長したよ!
本当に方向音痴なんです。でも、大坂城の周囲には、これでもかっていうほど地図があって、本当に親切です。遠くから来られた方でも余裕でまわれると思います。
ぜひ、天下人の気持ちを一度味わってください。
posted by 高野尾 凌 at 16:53| Comment(2) | TrackBack(0) | 史跡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

幸村という名前

今日は続きを書く余裕がありません。
明日、朝が早いので、明日の調べ物もあるので、閑話でお許し下さい。
第四章もいちおう、14で終わりですので、キリがいいのもありますし。

今日は大坂城に行って来て、大坂夏の陣の屏風や色々な物を見てきて、真田幸村の名前について、あらためて色々考えてきました。

皆様もよくご存知のように、真田幸村というのは実は後世による創作であるといわれています。
本名は真田信繁。
幸村というのは後の講談みたいなもので呼ばれてそれが浸透したからと言われていますが、大阪では絶大な人気の武将の名前が、勝手に改名されて、それがこうも広く隅々まで浸透するか?と思いませんか?
私は人気がある武将だからこそ、勝手に誰かが名前を変えちゃったら、「違うわ、ボケ」と思います。
それなのに、いきなり名前が知れ渡っている。
これはやはり、本人がどこかで「幸村」を名乗ったんだと思うんです。
それはどこか。
私は九度山時代ではないかと思うんです。
関ヶ原のあと、真田昌幸、信繁親子は九度山に蟄居されます。監視付きです。
でも、あの幸村のこと、おとなしーく、監禁されていたとは思えない。
だって、何人も影武者がいたんですよ。誰かを幸村に仕立てて、自分はこっそり名前を変えて、真田紐を売りつつ、色んなところの情報を手に入れていたとしか思えない。
九度山では、その人柄ゆえに、皆に好かれていたと言われています。九度山脱出のときに一緒に大阪に入り、真田隊に志願した人も少なからずいるとか。
真田左衛門佐、素晴らしい戦功で、美しい散り際だった。豊臣贔屓の大阪京都で絶大な人気、講談に小説に使おうとする人が出てきて当然。だから色んなところから話を集めて美談を作ろう。
まず、どこに話を聞きに行きます? 九度山しかないと思うんです。
ここで14年ものあいだ閉じ込められて、父親が亡くなっている。さぞかし無念の死に際だっただろう。ここで家康打倒の覚悟を決めたに違いない。
で、九度山に聞きに行くわけですね。
「あのー、信繁さんって、どんな人でした?」
「信繁さん? 誰、それ?」
「ここで蟄居されていた真田さんの息子さんのほうですよ」
「あぁ、幸村さんのことねー。変な名前で聞かないでくださいよー」
ってな感じじゃなかったんでしょうか。
で、ちゃんとリサーチした彼は真田幸村物語を書くわけですね。近畿では幸村のほうが名が通っていたので、そのままばーっと広がっちゃったと思うんです。

では、何故、幸村の名前を使った文書が一通もないのか。
隠し名であったと同時に、幸村にとって「信繁」の名前は、幸隆、昌幸と仕えた敬愛する武田信玄の弟の名前を貰ったものなので、捨てることはできなかったと思うんです。

という、私の勝手な勝手な、「幸村」考でした。
これ書く間に小説書けたな……。
posted by 高野尾 凌 at 22:24| Comment(2) | TrackBack(0) | 閑話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月04日

映画村

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映画村の戦国時代祭に来ています。
入ってすぐに半兵衛と慶次に遭遇。テンションは上がりますねぇ。
カプコンのブースでPSPの壁紙をもらい、入り口の幸村に見とれてたら、横を幸村と政宗が通りました。
ここは夢の世界か。

本来の目的は、信之と信繁兄弟のお話を聞くこと。寺子屋で1時間のお話は濃かったです。
知っているエピソードがほとんどでしたが、自分とは違う視点の話とかを聞かせていただくのはとてもためになります。
まぁ、私は「幸村」メインに勝手な解釈を付け加えまくりなので、暴走しないように気をつけなくてはと、気を引き締めてきました。
でも、書いちゃいますw 楽しいし。色んな幸村観が増えていったら楽しいなと思うので。

その後、男性陣コスプレの、御館様、幸村、東西アニキを見つけて写真を撮らせてもらったり、染め衣装コンビの瀬戸内にもお願いしたり。
マジ帰りたくない。
今日、知らずに来た人もいて、子供たちはナルトのサスケや銀魂の銀時さんを見つけては、興奮してました。

女性の元親のコスプレの人が、かっこよくて、綺麗で、恋に落ちそうになりましたよ。ポーズも決まってましたねぇ。
posted by 高野尾 凌 at 13:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 史跡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第五章−1−

 根津甚八は堺の港から南下した人気の少ない岩場に、一艘の大きな船を停泊させていた。
 少し小さめに見える安宅船だったが、小船で近づいてみると、確かに小さいことは小さいが、かなり重厚に造られている事がわかった。
「珍しくはないだろう。お前達が昨日まで乗っていたのと変わらないはずだぞ」
 甚八は平然と言うが、これはまさしく軍船だといえた。
 仲間はいない、海賊はやめたと言っていたが、船上には三十数名の水夫がいた。
「海賊をやめたというのは本当か?」
 嘘ならばここで降りる。そのつもりで幸村は問うた。
「海賊だったらどうする」
「降りる」
 きっぱり言うと、甚八は口を大きく開けて笑いだした。
「潔癖症なところは、子供らしいといえば子供らしいが。お前は親を戦で亡くしたんだろう? 戦だって、略奪は平然と行われているだろうに。そもそも戦こそ、人の命を平然と奪っている」
 それは幸村自身が感じてきた矛盾そのものであった。
 領地の取り合いなど、話し合いで解決は出来ないかと、幾度も幾度も考えてきた。
 そもそも父の昌幸は、領地を広げる野望はあまり持っていなかった。信濃を守ることに専心していたといえば聞こえはいいが、信濃から出るだけの兵力がなかったともいえる。
 ならば、あれば出て行っただろうか。
 天下を平寧にしたい。それはいつも言っていた。天下を取るためには、反対する勢力と戦わねばならない。それはつまり、相手を滅ぼし、自軍にも少なからず犠牲が出ることである。
 そもそも、それを狙っている勢力から、信濃を守るだけで精一杯だった。
 自分の国を守り、周囲から攻められぬには、それだけの力が必要だった。
 だから自国を治めることを学ぶと同時に、軍略についても学ぶ必要があった。
「平和な国があれば、戦は起こらない」
 結局、到達する地点はそこしかなかった。
 どの国も平和で、侵略される心配がなく、自国を治められるなら、他国を攻めないのではないか。
「平和ねぇ。生まれたときから戦しかしていない国の、どこに平和があるのか、教えて欲しいもんだ」
 誰も戦のない時代を知らない。それは遠い昔にあったと聞く、物語のようなものでしかない。
「大名達が争わず、それぞれの国を守り、不可侵を約束させられる人がいれば、戦は終わる」
 幸村が漠然と持っている、理想の国がそこにあった。
 天下をとったとしても、一人で全てを取り仕切ることなどできない。
 小さな上田の庄を一つとっても、父が全域に目が届いていたとはいえない。それぞれの村に人々を取りまとめられる村の長がいて、その村々の集まった郷にも長がいて、それがみんなの不満や不便をなくしていって、ようやく信濃の国が平和になっている。
 誰か一人、どこか一方にばかり力を注いだのでは、別のところに不満が生まれる。
 そんな小さな単位から、国という単位にまで人を集められる人物こそが、天下をまとめられる人となるだろう。
「その人がお前は羽柴秀吉だとでも言うのか?」
「今は一番近い」
 絶対に渡してはならない相手がいる。
 うまい汁だけを吸い、人の失敗だけを上手に避けることのできる奴。
「面白い奴だな。自分がそうだとは思わないのか」
「思わない。俺ではなれない」
「何故」
「秀吉殿は人を使うのがうまいと聞いた。自然と人が集まるらしい。誰もがそんな要素を持ち合わせているものではない」
 甚八は面白いと、目の前の少年を見た。
 まだ小さいなりで、どんな苦労をしてきたのかはわからないが、すさまじいまでの目をしていた。
 優秀としかいいようのない忍を連れている。さっきは浜辺だからこそかろうじて先手を打てたが、本気でかかってこられたら、かなりの苦戦を強いられるだろう。かえって船上のような高低差のある場所では忍に有利で、なれている場所とは言っても自分には不利になりかねない。
 それに……。自分には人を惹き付ける魅力がないと言った少年だが、なかなかどうして、はっと目を止める存在なのだ。
 見目のいいことはもちろんだが、それを抜きにしても、知らずに通り過ぎることはできないような、存在感があるのだ。
 羽柴の水上軍を監視していたのではないが、成り行きを見ていたときに、ちょこまかと動く子どもに興味がわいた。
 船には他にも子供がいたが、都合よく使われているのはこの子とその連れだけだった。しかも手伝いながら、どうにも船のことを調べているように映った。
 只者じゃないと思ったのだ。
 そう思ってみると、頭脳の明晰さを映したような涼しげな目元と、つい気を許してしまう愛らしい微笑の差異が、この少年を魅力的に仕上げている。
 そんなものが備わっていながら、自分は器ではないと言い切る。
 いつかこの少年が、「天下を狙わなかったのは、自分より先に秀吉が生まれていたからだ」と言い出しそうな、そんな気さえしていたのだ。
「海賊は本当にやめた。もともと海賊が本業じゃなかった。どこかの水軍で助太刀をしたり、商船の護衛をするのが仕事だった。あぁ、海賊は何度かやったのはやった。関東軍の船を見たら、血が騒ぐんだ」
 にやりと笑われて、幸村は頷いた。
「四国攻めを見物できるところはあるか?」
「あぁ、連れて行ってやる。あの辺は庭みたいなもんだ」
 成り行きで拾った子ども。単に興味がわいただけだった。
 それが既に戻れない道を踏み出しているなど、甚八が自覚できるはずもなかった。
 
posted by 高野尾 凌 at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 第五章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月05日

第五章−2−

 甚八の船「貴龍丸」は、素晴らしい速度で西を目指した。
「瀬戸内は海流が複雑なんだ。読み間違えたら押し戻される。羽柴軍は、このあたりの村上水軍を率いているから問題ないだろうが、小さな島も多いし、海岸も入り組んでいるし、苦戦は避けられないんじゃないかな」
 甚八の予想に、幸村はそうでもないだろうと思っていた。
 長浜や堺で拾い集めた噂と、これまでの戦略を考えれば、秀吉軍は一気呵成に勝負をするだろうと思われる。
 とにかく秀吉の軍勢は足が速い。中国の大返しでも知られたように、動けば迷うことなく突き進み、相手が待ち受ける用意も出来ぬほどの速さを誇る。
 これは軍隊が速いだけではなく、それまでの情報収集と準備が完璧に出来ているからだろうとわかる。
 どれだけの人数をどのように配置し、どの道を進むかを取り決め、そこから先は迷わせない。大量の兵士が進むにはそれなりの食料が必要だが、行軍より先に別の隊に準備させる。荷物は減り、兵士達の負担も少なくなり、進む速度はさらに増す。
 それが今度の戦でも如実に現われていると感じた。
 軍船はどれも同じように見えたが、明らかに兵士を運ぶ船と、兵器を運ぶもの、食料を運ぶものが別にあった。
 今回は海路なので、それが並行して進むことになる。
 水兵たちは今回の戦は楽だと口々に言っていた。それはつまり、戦うより余計な心配をしなくて済むという事なのである。
 普通の兵力ならば、このような贅沢とも言える軍の配置は出来ない。食料を運ぶだけの軍など、それだけで一国を築けそうである。そんな余力のある国はない。それこそが羽柴軍の強みなのだ。
 途中、堺の港で三好兄弟を拾った。
 清海も伊三も、いつの間にか船を手に入れている幸村にあんぐりと口を開ける。
「うちの殿様は油断ならない」
 清海が笑うのに、「これは俺の船ではない」と訂正するが、もう貴龍丸が幸村の船かのように思っている。
 その三次兄弟が堺で聞いてきた話では、毛利軍も小早川軍も、今回の四国征伐に参戦するという。
「そうか……。断れるはずはないな」
 中国攻めのときに起こった本能寺の変。その時に結んだ講和条約で、秀吉は中国から追っ手をかけられずに済んで、無事に崩れかけた自軍を立て直せた。そのため、再度の中国攻めは行わず、毛利、小早川、吉川はそのまま領土を安堵されている。
 今回の四国攻めに参戦しなければ、再び全面戦争は避けられない。中国攻めのときよりも、今や羽柴軍は勢力の拡大甚だしい。
「それじゃあ、やめて引き返すか?」
 甚八はどちらでもいいという構えだった。
 戦乱が長引けば、漁夫の利よろしく儲け話にも出会えるが、いざ海に出て水軍の様子を見てみれば、入り込む余地は少なそうだった。
「いや、どこかいい所につけて欲しい」
 幸村としては四国側から見たかったが、それはさすがに危険だと、佐助や三次兄弟に止められた。
「じゃあ、明石か灘だな。それより西に行くと、内海を守る毛利軍がうるさそうだ」
 甚八はそう決めて、船を進ませた。
 船を進ませるのは馴れたものだが、はじめての船に幸村が興味津々に色んなことを尋ねまわるのには閉口した。
「いい加減にしてくれ。お前は水軍長にでもなるつもりか? 違うだろ?」
「別にこの船を攻めるつもりで偵察しているのでは無し、教えて欲しいだけだ」
 今まで知りたいと思ったことに対して嫌がられたという経験が少ない幸村は、甚八の態度に少なからず腹を立てて、教えろとばかりに詰め寄った。
「そんなものはな、教えてもらって身につくものじゃねーんだ。がきの頃から波を子守唄に、見よう見真似で体得していくもんだ。そんな生っちろい細い体で、何も出来やしねーよ。どうせ命令するだけの立場になるお武将様なんだろ? じっとしてろよ。それなりに扱ってやるぜ」
「わかった」
 案外あっさり幸村が身を引いたので、甚八は出鼻をくじかれたようになる。
「い、いいのかよ」
「体得すればいいのだろう?」
 そうじゃなくて。いいかけたが止めた。
 やめさせることは簡単だったが、どのようにやるのか見たい気もした。変な事を始めれば、きっと他の三人が止めるだろうと、安易に考えてもいた。
 船長の許可を得たとばかりに、それから幸村はあちこちに顔を出し、首を突っ込み、水夫達を相手に愛嬌を振りまいて、たちまちのうちに溶け込んでいった。
 豪放で、明け透けで、大胆な男達は、世話を焼いたり聞かれることを教えたり、色んなことを手伝わせたりと、幸村を取り合う勢いだ。
「あんた、部下を取られちまうぜ」
 伊三が少しばかり心配になって言ってみたが、甚八はそれを鼻で笑って受け流した。
「薄っぺらい板一枚下は、底無しの荒れ狂う海だぜ。この船が俺たちの世界だ。そんな簡単に裏切られる絆じゃねーんだよ」
 そういう心意気こそ、幸村の知りたいことだとは気づかずに、甚八は船の男の世界をついもらしてしまう。
「あんた達こそ、どうしてあの坊ちゃん坊ちゃんした、年若の子どもに付き従っているんだよ。二人ならそれなりの石高で雇ってもらえるところもあるだろうに」
「その質問、そのまま聞き返したいもんだ」
 清海ににやりと笑われて、甚八は腕を組んだまま小首を傾げた。
 そして同じような笑顔を浮かべる。
「つまり、あれだな……」
「そう」
 そして声を揃えてしまう。
「雇われたいと思う武将などいなかった」
 あははと陽気に笑い声を上げる。
 甚八は笑いながら、これは自分もやばいんじゃないかと気がついた。
 同じことを思っていた相手が、主を得ている。そして自分も、その子どもをつい船に乗せてしまった。
 笑い声に力が無くなっていく。
 瀬戸内には春を感じさせる風が吹き抜けていた。

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2009年10月08日

第五章−3−

 明石で一旦船を下りて、甚八たちは食料などの補給をした。
 三日はここで停泊すると聞いたので、幸村たちも船を下りて、久しぶりに宿をとることにした。
「置いていかれたらどうするよ」
 こんな所で置いていかれたら困ると、清海は少しばかり心配になった。
「中国地方を回るのも面白いかも」
 幸村はまったく気にした様子もなく、その時はそのときとばかりに、気軽に漁村の中に入っていく。
 元々あてもなく、諸国を回るつもりだった幸村にとっては、ここまでの日数と足代を稼げただけでも儲けものという考え方だ。それに対して、付いていくと決めた三好兄弟には反論の余地がない。
「この辺りは暖かいな」
 幸村がうーんと背伸びをする。
 播磨の国は、海から北向きに、すぐに山脈が続く。浜からの風と山おろしの風が混じりあい、独特の気候の様だ。それでも信濃よりはずいぶんと暖かい。
「雪が降るのかなぁ」
 信濃ならば、まだそこかしこで雪の残る季節に、ここでは桜の花も散り始めている。
 漁業と林業で主に生活を成り立たせているらしく、田や畑は少ない。
「今までにも思ったけれど、その土地にしかないものというのは、とても重要だな」
 明石の漁港で見たのは、蛸と鯛。それを求めて遠くから買い付けに来る商人が多かった。
 酢漬けや干物にして持ち帰ったり、早馬で届けたりするらしい。
「雪が少ないと、作物を作るのにも余裕があるようだ」
 雪が解けると、大急ぎで田植えの準備をして、雪の前に刈り入れを急く信濃とは大違いだ。
 そう思うせいか、村人達ものんびりとしているように見える。
 道で行き交う人たち同士が笑顔で挨拶を交わし、何かを話しこんでいる姿を遠目で見る。その両目に映っているのは、遥か遠くに離れてしまった故郷の農村だろうか。
「きっと帰れます」
 佐助の短い励ましに、幸村はくすっと笑う。
 一緒に逃げ出してきた少年忍者は、辛い日々にも一切の不平不満を漏らさず、ずっと幸村の傍にいて守ってくれている。
 言葉は少ないが、下手な根拠のない慰めを言われるより、たまにぽつりと『大丈夫』といわれるほうが心強い。
 目標を見失わずにいられる。強く前を向いていられるのだ。
「帰ったら、一緒に釣りをしような」
 海での釣りのしたかは貴龍丸の水夫に教えてもらった。川釣りの仕方はまた違うだろうが、その違いを探していくのも楽しそうだ。
「釣りより、銛のほうが早いです」
 正直な申告に、幸村が声を上げて笑う。
 確かに佐助ならば釣り糸を垂らすより、剣を投げたり、銛で突いたりするほうがうまく獲れそうだ。尖った石を見つけては、魚を獲って食べたことが何度もある。
「食事のためにするのではなくて、のんびりを楽しむために釣りをしたいんだ」
 それは佐助にはわからなかったらしい。何もせずに釣りをするよりは、鍛錬するほうが大切だと思っているのだろう。
「いつかお前にも、だらだら過ごすことを教えたいな」
 そう言いながらも、果たしてそんな日が来るのだろうかという不安は、ずっと幸村の胸にもある。
 故郷を捨てずにいるつもりだが、本当にそこは帰る場所として、幸村を受け入れてくれるだろうか。
 自分はもう異邦人となってしまったのではないだろうか。
 時に決心が大きく揺らぐ。
 幸村たちは山の寺を見つけて、一夜の宿を頼むことにした。
 寂れた寺だったが、幸村たち四人を快く受け入れてくれた。
「最近は戦があるとかで、海のほうが騒がしいですな」
 寺の住職はかなりの高齢で、目もかなり不自由なようだったが、寺の生活に不自由は感じていないようだった。
 幸村たちが持ち込んだ魚をたいそう喜んでくれて、山菜と麦飯をご馳走してくれる。
「粗末で申し訳ありません」
 申し訳なさそうに言われるが、久しぶりに揺れていない床の上で食べられるご飯は、四人にとっては贅沢なご馳走である。
「船もいいんだが、やっぱり大地が一番だな」
 清海はどこかで仕入れてきた酒で、すぐにご機嫌な調子になっている。
「海の戦は長引きそうですか」
 夜はまだ冷え込むので、みんなは囲炉裏のそばに寄ってくる。
「案外早く終わるのじゃないかと思います」
「ほう?」
 薄く光しか見えていない目を幸村に向ける。
「四国のほうの情勢はわかりませんが、羽柴殿の動きを正確に把握しているなら、有利な条件のうちに戦を終わらせるのが得策と判断すると思います」
 住職はぼんやりとしか見えない、まだ声も高い子どもの影が、揺らめく光の向こうで大きくふくらんだように見えた。
「この戦が落ち着いたら、四国へ行く予定ですか?」
 不思議な組み合わせの四人組。大人のほうが子どもに付き従っているように見える。
「特に決めてはいないんです」
 幸村の答えに、住職は見えない目を瞬かせた。
「海戦の様子を見たいなと思っただけで。元々は大坂か安芸の方を見たいなと思ってたんです」
「ずっと放浪をするというわけにはいかんでしょう」
「……えぇ」
 あてはないけれども、いつまでもふらふらしているわけにもいくまいとは思っていた。だが、徳川の追っ手から完全に逃れるためには、信濃から遠く離れなければならず、そうすれば徳川の動きもわからなくなる。
 それを考えれば、大坂は近すぎるような気がするし、安芸では遠すぎる。四国は海を隔てているのでいいようにも思えるが、徳川の動きが全く掴めなくなるように思う。
「四国が落ち着いたら、また拙僧に会いに来てくださらんか」
 住職は小僧に囲炉裏に新しい炭を入れるように頼みながら、幸村たちに再会を望んだ。
「お邪魔ではありませんか?」
 四国ではなく、大坂や中国に行きたがる。話しの端々に、周りの情勢を正確に掴み取っている目を感じる。
 その小さな胸に大きな志を持ち、場所だけでなく時間までも遠くを見つめている視線がある。
 もっと目がよく見えたなら、この子どもの顔を見る事ができただろうにと惜しみながら、見えないからこそ感じる、この子の器の大きさに、手を貸してやりたくなった。
 昔、人から頼まれて世の理を説いて教えた子どもが、同じような空気を持っていた。
 既に成人し、誰もが名を知る武将となった彼に、会わせてみたくなった。彼も今は四国に向かっているだろう。

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2009年10月09日

第五章−4−

 十蔵は上田の庄を歩きながら、その様子の変化に愕然としていた。
 久しぶりに戻ってきた上田の庄は、何も変わっていないように見えて、村に漂う空気は明らかに違っていた。
 人々の顔に鋭気がない。歩く姿も俯きがちだ。
 十蔵は上田城に入ろうとして、門番に阻まれた。
「俺は筧茂治の息子だ。父に会いに来た」
 取次ぎを頼んでも、書面で許可を取らないと入れられないの一点張りだ。
 ならばとその書面を提出してみるが、筧茂治に面会は出来ないと断られる。
 父に会うだけでこのように苦労するとは思っても見なかった。
 仕方なく、十蔵は城下に近い農村で、しばらく厄介になることにした。
「新しい城主になってから、税が上がって、生活が大変になりました」
 十蔵が都合をつけてきた米をひどく喜んで、丁寧にもてなしてくれる若夫婦が気の毒に感じられた。
「いくら願っても無理だとわかっているんですが、源次郎様さえ生きてくださっていたらと、そう思わずにはいられないんです」
 小さな体で、村の中をかけていく元気な若様。
 気さくに話しかけ、村の生活のことを一番に気にかけてくれていた。
 生きているかもしれない、そう言えたならどれだけ気楽になれただろうか。けれど、誰にも知られてはいけない。例え上田の庄の、源次郎の生存を願う人であっても。
 実は十蔵は上田に戻る前、春日山城に寄ろうと思った。誰よりもそれを願っている小姓の二人に、知らせてやろうと思ったのだ。
 けれど、越後に入る直前で、不審な人影を見つけた。
 つけられている……。どこの手のものに? などと考えるまでもなかった。
 自分はこれまでに、変な動きをしなかっただろうか。今までの行動を省みる。
 冷や汗が背中を伝う。長浜で突然引き返したのはまずかったのではないか。
 だとしたら、またこの春日山で引き返しては余計に探られてしまう。
 十蔵はまだ頑なな態度を崩さない、六郎と小介に会い、形ばかりに上田に戻らないかと誘った。
 二人は十蔵を睨んだまま首を横に振り、ほとんど喋らないままに上田へと向かってきた。
 越後を出たところで、不審な追跡者の影は消え、越後が監視されているのだとわかり、長浜までは手が伸びていないことに安堵した。
 なんとか父に内密に連絡を取りたいと思っているところに、真夜中、農家を訪ねて来る者がいた。
「十蔵様……、十蔵様」
 屋根から声をかけられて、十蔵は跳ね起きた。咄嗟に刀を掴んだが、自分の名前を呼ばれたことで、父からの遣いではないかとも思っていた。
「真田忍隊、影斎の息子、影桂と申します」
 十蔵が土間のほうに降りると、目の前に黒い人影が現われた。
「茂治様より、書状をお預かりしてまいりました」
 忍が懐から出してきた手紙を、ろうそくの明かりにかざす。確かに父の字で、三日後に源次郎堤で待つと書かれている。
「父に了解したと伝えてくれ」
「承知」
 影桂はまた闇に溶けるように消えた。十蔵は父からの文をろうそくの火で燃やし、かまどに投げ入れた。
 一切の証拠を残してはならない。絶対に守られねばならない、この秘密だけは。

 三日後の日が沈む頃、十蔵は農夫に姿を変え、銃を鍬に持ち替えて、源次郎堤に立った。
 源次郎が急いで作らせたこの堤は、今もその名前で呼ばれ、上田の庄を何度も守っている。
 あの時、十蔵は源次郎に命じられて、雪融け水が鉄砲水となって川を駆け下ることの恐ろしさを、村の老人に聞きに向かった。
 あれほどに上田の庄を愛し、必死に守ろうとした少年が、この地を捨てるはずがない。どこにいるのかはわからないが、この堤を見れば、必ずここに戻ると信じられる。
「十蔵か?」
 茂治の声はひどく疲れて聞こえた。
「何用で上田に戻った? お前は上田に戻ってはならぬ」
 他に成すべき事があるだろう。父の声は十蔵を責めているようだった。
「上田に戻ったのではありません」
 それだけははっきりと言い切った。戻るときは源次郎と一緒だ。その決意はまだ明かせないが、父ならば言葉に出来ない十蔵の言葉も察してくれると願った。
「上田城は、村上によって占領され、何もかもがいいように荒らされている。居残った上田の兵士はまるで奴隷扱いだ」
 父の話に、澱んだ空気は村の中だけではなく、城の中にも充満していることがわかった。
「城を抜け出すものも増えているが、出て行くものは身包みはがされる。だが、そうまでしても出て行こうとするものが増えている」
 抜け出しさえすれば、どこかに仕官することもできるだろう。その望みだけで脱出する。
 上田がこうならば、北条や他でも同じだろう。
「父上、抜け出す者に、踏みとどまるように説得してください」
「十蔵……」
 上田城は昌幸が築いた、難攻不落の山城だ。攻めるとすれば、内部崩壊を狙うのが、一番犠牲が少ない。
「お願いします。上田城は……上田城は、真田の城です」
 必死に何かを請う息子というものを、茂治ははじめて見た。物静かで、無口で、銃の腕は超一流だが、高くを望まず、控えめにとおす息子が、一途に請い願うさまに、渇きかけていた心に温かいものが込み上がってくる。
「ご無事……なのか?」
 出世も、名声も、何も望まなかった息子が、ただ一人と決めた人。
 彼が生きていてくれるのなら、今の苦労など何も辛くはない。
「お姿を確認してはおりません」
 それでもよかった。十蔵がその痕跡を間違える筈がないと確信できる。
「何人か、鉄砲の上手な者を選んで、城外に出させる。お前が育てろ。金は持っているか?」
 所持金は長浜ですべて渡してきたが、春日山で矢沢から渡された分があった。矢沢が昌幸と別れるときに、上杉家に託すためにと預かっていたものだ。上杉家はその金を受け取らず、上田城に戻ると言った十蔵に、上田に残った者のためにと、今度は十蔵が預かってきたものだ。
「それだけあればなんとかなるだろう。忍も幾人か連絡用につける。北条、松平、本多に散ったものたちにも繋ぎをつけてくれるか?」
 上田城は抜け出せない。いつ捨ててもいいかと自棄になっていた茂治だが、これで目標ができた。上田にしぶとく残る。そのためならば、村上に思ってもいないお世辞を言うことだって厭わない。
「頼んだぞ、十蔵」
「はい」
 二人はしっかり頷きあって道を分かれた。

posted by 高野尾 凌 at 22:34| Comment(2) | TrackBack(0) | 第五章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする